蜂に追いかけられた話

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小学校の頃、毎年決まった時期に墓参りに行っていた。

わたしの実家のお墓は、ちいさい丘の斜面に作られていて、斜面の中ごろのすこし上にわたしの先祖が眠っているという場所があった。
バケツで水を汲み、ひしゃくでそれをかけ、掃除したあと、蚊に噛まれながらお線香をあげて数珠を持って拝んでいた。

ある年、妙に蜂が増えはじめた。
刺されたら痛そうな蜂で、それを避けつつ水をかけて線香に火をつけ拝むのは一苦労だった。

ある日、蜂が増加した原因を突き止めるべく、家族で墓参りに行った。
墓の廻りの藪をチェックしたが、どうやらそこにはいなさそうな気配。

蜂の動きを観察していると、お墓の骨を入れるスペースの蓋の隙間に入っていく。
「ここにおるんじゃろうか」
と、父が蓋を軽い気持ちで開けると、すごい勢いで蜂が噴出してきた。

巣をつくっていたのである。

撃退するためのスプレーも間に合わず、お墓のある丘の急斜面を4人で駆け足で降りていった。

息も絶え絶え、蜂から逃げ切れたとホッと一息つき安堵していたが、数匹が服にくっついており、刺されて激痛が走った。

父も母も刺されていたが、いちばん刺されていたのは弟だった。
あのときほど、弟が可哀想だとおもったことはない。

女性に騙された話

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小学校の頃、可愛い同級生の女性がいた。
いま考えると、可愛いというよりも、男心をわかっている女性で、わたしはその女性と関わっていると、いつも楽しくて高揚して調子に乗ってはしゃいでいた。
手のひらで踊らされていたのである。

ある日、夕方の掃除の時間、体育館の裏にある竹藪をみんなで掃除しているとき、わたしはその箒で魔女のような仕草を見せたり、空を飛ぶような試みをしたり、その女性に好意を抱いていただこうという気がほとばしって手がつけられなくなっていた。

そうするうちに、どこからかパッと目をふさがれた。

「だ〜れだ」という声が聞こえる。
その女性の声だ。

誰だじゃない、あなたではないかと思う。

心臓の鼓動は高まり、口元はそこはかとなく緩んだ。

期待を高め、「◯◯ちゃ〜ん」と後ろを振り向くと、
そこにいたのは教頭先生だった。

わたしは騙されたのである。

犬に追いかけられた話

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小学校のころ、通学路に野良犬がいた。
そこしか通ることが出来ないので、私はいつもその部分を毎日怯えながら、集団登校をしていた先輩や後輩に隠れ、急いで通り抜けていた。

ある休日、いつも犬がいる場所を自転車で通り抜けようとすると、いつもいる犬よりひと回り大きいサイズの別の犬がいて、随分と吠えられた。
怖かったが、急げば大丈夫だろうと思い、ペダルを踏みこんで犬のサイドのスペースを抜けると、その犬は、私の乗った自転車をものすごい勢いで追ってきた。
ペダルを限界までこいで500メートル先まで逃げたが、まだ追ってくる。
左折し、また数百メートル進むと、目の前に踏切が。
犬はどんどん近づいてくる。
カンカンカンと警報機が鳴って、遮断器は降りてくる。
後ろには、息を荒げた犬が、目と鼻の先に……。

結局、襲われずに逃げ切れたが、最終的にどう逃げ切ったのか。
まったく覚えていない。

台風を知らせた話

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中学校の頃、台風がわが地元にやってきた。

わたしの実家は海の近くで、家からは防波堤が見えるほどの距離にある。
雨は止んだが、台風の勢力は衰えず、風はいぜん強いままだった。

朝、海のほうを見ると、大きな波が見える。
度重なる強風で波が荒れ、砂浜の砂が防波堤の先まで押し上げられたため、強風で煽られた波が、防波堤を越えて家からも見えるほどの高さになっていたのだ。
「波がすごいことになっとるよ」
と私は父親に言った。
「おお、すごいことになっとるねえ」
と父は言った。
「大丈夫やろうか」
「大丈夫じゃろ。こっちにゃ来やせん」
わたしはホッとした。

私は母にもこの衝撃を伝えたくなり、同じ内容の情報を知らせた。
「波がすごいことになっとるよ」
「そうやね。あんたご飯をはよう食べなさい」
私は朝ご飯を食べていなかったことに気づき、一階へ降りて食事を済ませたあと、二階にあがると、再び強い波が窓から見えた。
父親に報告した。
「波がすごいことになっとるよ」
「知っとる」

私は、一階と二階を昇り降りするあいだに、父に波のことを伝えたのを、すっかり忘れていたのである。