台風を知らせた話

中学校の頃、台風がわが地元にやってきた。

わたしの実家は海の近くで、家からは防波堤が見えるほどの距離にある。
雨は止んだが、台風の勢力は衰えず、風はいぜん強いままだった。

朝、海のほうを見ると、大きな波が見える。
度重なる強風で波が荒れ、砂浜の砂が防波堤の先まで押し上げられたため、強風で煽られた波が、防波堤を越えて家からも見えるほどの高さになっていたのだ。
「波がすごいことになっとるよ」
と私は父親に言った。
「おお、すごいことになっとるねえ」
と父は言った。
「大丈夫やろうか」
「大丈夫じゃろ。こっちにゃ来やせん」
わたしはホッとした。

私は母にもこの衝撃を伝えたくなり、同じ内容の情報を知らせた。
「波がすごいことになっとるよ」
「そうやね。あんたご飯をはよう食べなさい」
私は朝ご飯を食べていなかったことに気づき、一階へ降りて食事を済ませたあと、二階にあがると、再び強い波が窓から見えた。
父親に報告した。
「波がすごいことになっとるよ」
「知っとる」

私は、一階と二階を昇り降りするあいだに、父に波のことを伝えたのを、すっかり忘れていたのである。