Vol.3 フィルムセンター編
フィルムセンターへ
「名画座」とは、いったいどんな場所なのだろうか……?
案内人は、のむみちさん。名画座の上映案内フリーペーパー『名画座かんぺ』を発行している、いわば今の名画座を知り尽くした方だ。
同行するのは、漫画『とんかつDJアゲ太郎』の原案を手がけるイーピャオさん。
ふたりで都内主要5館の名画座を1日で行脚、名画座の魅力に迫る!!
神保町シアターを後にしたイーピャオさんとのむみちさん。地下鉄神保町駅(半蔵門線)から三越前駅で銀座線に乗り換え、フィルムセンター至近の京橋駅で下車。いざフィルムセンターへ!!
次はフィルムセンターだね。フィルセン(※フィルムセンターの、一部名画座愛好家内での略称。「ルムセン」とも呼ばれている)の何が良いって、駅から近いところ。すぐだもん。ホラ!
東京国立近代美術館フィルムセンターは、(略)我が国唯一の国立映画機関です。(略)文化遺産、歴史資料としての映画フィルムや関係資料の収集・保存・復元に取り組み、(略)様々なテーマによる企画上映や展覧会を開催するとともに、映画文献専門の図書室も開室しています。
(フィルムセンターWEBサイトより抜粋)
入館
今日まで(※取材時)ぴあフィルムフェスティバルが行われてるんですね……!
(中へ入る)すごーい!いつもとぜんぜん違う。若い人が多い!キャピキャピ感がある(笑)。

ようこそ。
イーピャオくんはフィルセンに来たことがあるの?
ウッ!恥ずかしながら、私ははじめてなんです。
そうか…。国の機関ってことで、敷居が高いって思われがちだけど、実はそんなことなくて、映画館としても観やすいんだよ。でも確かに来たことないって人多いんだよね〜。そういう人向けに、フィルセンの「並び方」を紹介したいんだけど……。
有り難いです。うちは初めて来る方には判りづらいかもしれません。
入場の仕方が特殊なんですか?
整理券を出してないから、ロビーの椅子に順番に並んで開場するのを待つんだよ。

なるほど。並ぶ順番がかなりシステマチックに決まってるんですね。

まずはロビーの椅子で、それでも足りなかったら壁沿いに並んでいただいてます。
警備員さん それでも足りなかったら表に並んでいただいてます。ロビーだけでだいたい100人位なので、満席になるかどうかは、ここをみてるとわかるんですよ。
へ〜。なるほど。
熟練の技が光るところですね…!
あと、他の名画座と違うのは、警備員さんがいるところかも。2階が劇場なんだけど、一回入場しても降りてくることも出来るから、ここで持ってきたご飯食べたりね。
(壁を見渡して)アッ!「名画座かんぺ」が張り出してある!

フィルセンの変セン
ロビーの壁に並んでるのはフィルセンの機関誌ですよね。
そうですね。1970年にフィルムセンターが開館した頃から、古い順で並んでいます。
デザインのフォーマットが決まっていてかっこいいですね…!
この頃は読み物が多かったんです。当時はいまほど事業の数が多くなかったので、職員みんなで分担して書いてたんですよ。
へえ〜。
途中で誌名が「FC」から「NFCニューズレター」に変わってますね。
95年に新装開館したんですが、それにあわせて誌名を変えたんです。いまは私を含めて3人で編集作業をしています。
毎回つくるのは大変ですよね〜。
ここはそもそも、明治時代に映画館だったんですよ。
えーっ!明治時代ッ!?
初期の映画会社である福宝堂が経営していた「第一福宝堂」があったところで、1912年に福宝堂が他社と合併して日活になってからは「京橋日活」という映画館でした。その後日活の本社のビルに一時期(※戦前)なってたんですよ。だから映写室はもともとあったんです。
なるほど、そんなに前から映画に絡んだ土地だったのか。
戦後、国立近代美術館を新しくつくることになって、日活の本社のビルを建物そのままで美術館にしたんです。70年に美術館が竹橋に引っ越して、映画部門をそのまま京橋に残して拡大したのがフィルムセンターなんですよ。東映や大映の本社も一時はこのあたりにあったんです。映画業界の多い街でもあるんですね。
フィルムセンターの特色
名画座としてのフィルムセンターの特徴は、どんなところですか?
フィルセンはフィルムの所蔵がすごいから、ひとりの監督を特集するときでも、他で観られないものが上映されたりするところかな。
レア物が上映されるんですね…!
最近は企画が決まっていて、この時期(取材時。10月頃)だと去年なくなった監督の追悼上映をやることが多いかな。あと、入場料金が520円なのが有り難い(笑)。
ウワ~、安い…!
海外の映画を上映することもありますよね。
そうですね。海外にも我々の仲間である映画保存機関があって、そこと提携して上映しています。ちょうど次の特集がUCLA映画テレビアーカイブです。
UCLAというと、大学の機関なんですか?
大学のなかに学部のような形で、映画とテレビのアーカイブはあるんですよ。巨大なコレクションなんです。
テレビも…!すごいですね。
当館のもうひとつの特徴は、「復元」だと思います。保存するだけでなく、劣化するフィルムを修復したり、デジタル技術で傷をなおしたりしているんですよ。昔の映画は階調が悪くて音も聞き取りづらいというイメージがあるかもしれませんが、つくられた当時の状態まで復元すると綺麗なんですね。それを観るのは、復元前の状態で観るのとは、また違う体験なんです。
修復はここで行われているんですか?
修復は主にIMAGICAなどの民間の現像所と協力しながらやっています。松竹と協力して小津のカラー映画を復元したりするなど、映画会社さんと組んでやることもあります。
なるほど〜。
あと、開館当初から通っているような常連のお客様が多いのも特徴かも知れません。45年の歴史があるので、大概の映画は観ちゃったという方もいらっしゃったり……。
「大概の映画は観ちゃった」!?すごいですね……!!
猛者(もさ)がいるんだよ。
最近は、めったに観られない作品に多くのお客様が来るように思います。
逆に、神保町シアターや新文芸坐は有名な作品でもちゃんと(お客さんが)入ってますよね。名画座ごとに棲み分けが出来ているのかも。番組の編成を見ても、各館のバランスよくなってる気がします。
フィルムセンターは上映回数が多くないんですよ。他の映画館だと1週間のなかで毎日、ということもありますが、フィルムセンターの場合、一本の作品を、会期中に2回、多くても3回の上映しかしないんですよ。
それはなぜでしょう…?
フィルムセンターは、フィルムを保存して、10年後100年後の将来の映画ファンにもいい状態のプリントを受け継ぐ「フィルムアーカイブ」がメインの仕事なんですね。観てほしいんですが、映写機にかけるたびに負担を与えてしまうんです。だから、上映するときは最大で3回までという回数の制限をしています。ただ、全く観られないのは存在しないのと一緒なので、そこはバランスなんです。
2階へ

資料を閲覧できるコーナーがありますね。
これがさっき飾られていたニューズレターですね。
面白い記事がいっぱいありますよ。
この厚い本は……?
これは所蔵されているフィルムの目録ですね。フィート数が入っていたり、作品情報だけでなくフィルムの物理的な情報も記載しているのが特徴です。
「再建」って何ですか?
これは戦後の『キネマ旬報』の号数ですね(※「再建」は、戦後『キネマ旬報』が再建されたことを指している)。この号に、作品の批評が掲載されてるんです。
そんなのまで載ってんだ!このNってのは?
ネガですね。Pはプリントです。
なるほど〜。
新しいものだと、どのあたりのところまで所蔵してるんですか?
ごく最近のものまでですね。
デジタルのものも?
そうですね。
デジタルの映画はどうやって保管してるんですか?
それが大問題で……データは専用の磁気テープに入れて保存しているんですが、6〜7年で媒体変換(マイグレーション)しないといけないと言われているんです(※確実な保存期間)。一方で、フィルムは100年以上持つんですね。デジタルだとデータは劣化しないんですが、何かしらのメディアに保管し続けないといけない。
うわ〜怖い〜。
メディアの期待寿命は製品によってもバラバラですし、HDDは数年でダメになるので、続かないんです。
規格も変わりますよね。
そうなる前に、移し替えないといけないんですよ。
それは大変だ!
データも大きいですし、4K、8Kとどんどんサイズが大きくなって、お金も時間もかかるようになっているんです。「デジタルジレンマ」という言葉が出てるくらい世界中が悩んでる問題なんですよ。まだ、完全にデジタルだけという収蔵作品はごくわずかなのですが、今後はそういったことも考えていかなければいけない状況です。今は日本映画も撮影から上映までほとんどがデジタルなんですが、特にインディペンデント映画などは保存にまわすお金がなかなか作れない。
いまインディペンデントっておっしゃいましたけど、フィルセンに所蔵していただくにあたって負担ってあるんですか?
館内利用について了承を頂ければ、あとは所有権が移転するだけです。もちろん著作権は製作者側に残ります。
インディペンデントの作品も保管していただけるんですか?
我々は美術館と違って、コレクションを原則として選別しないんです。来たものは、ぜんぶ平等。メジャーだろうが100年前だろうが、個人の映画でも、ピンク映画から子供向けのアニメーションまで、一切そこに順位は存在しないんです。
映画は映画、平等ってことですね…素晴らしい!
ただ、デジタル映画の寄贈受け入れについては、まだ体制が整っておらず、今後の重要な課題の一つです。
いや〜アーカイブは奥深いですね……!!
あと、フィルムセンターは、映画館として映画だけ観に来る人が多いけど、7階には展示室があって、映画に関する常設展や企画展が開催されていたり、4階には図書室もあるの。
映画を観終わっても、そうとう楽しめますね。京橋は最近再開発が完成して気になってるんです。フィルセンを軸に一日過ごしてみるのも、楽しいかも…!

★次回はシネマヴェーラ渋谷!
構成:トマソン社
登場人物

のむみち
1976年宮崎県生まれ。池袋古書往来座店員。
2009年に旧作邦画に目覚め、名画座と出会う。
2012年にひと月の都内名画座スケジュールを一覧表にしたフリーペーパー「名画座かんぺ」を創刊。
2016年に5年目を迎えた。

イーピャオ
東京都出身。ジャンプ+にて連載中の漫画『とんかつDJアゲ太郎』原案担当。
普段は会社員。