昭和30年代の文房具

今日は、昭和30年代の机の上に乗っていそうなの持ってきました。

使ってそう~。アッ!ブロッターだ。『お嬢さん乾杯!』(1949、松竹)で佐田啓二が相手役の女優さんの涙をこれで拭くの(笑)。

戦後の文房具っていったら「ボールペン」と「ホッチキス」と「マジックインキ」なんですよ。

マジックインキは、もともとは向こう(海外)から来てると思う。ボールペンは進駐軍が持ち込んだんだよね。ホッチキスはアメリカからちいさいホッチキスを持ち帰って、MAXの人が開発したの。この前にもう一つあるけど、これ(写真のモノ)がすごく大ヒットして。

へえ〜。

だからみんな「10号」ってやつを使ってたの。このダブルパンチは昔ながらのもので、すこし前まで現役で売ってたもの。

LIONだ!かっこいい〜。このペン「オートペンシル」って書いてあるね。

今でいうボールペン。他の文房具でも当時は違う呼び方だったりしていて、だから名前が違っても同じものもあるんですよ。鉛筆も明治時代は、木削筆(もくさくふで)だったり。

えー!「鉛筆」じゃなかったんだ。

いま名前で気になっているのは、クレヨン。色チョークだったり色鉛筆だったり、いろんな言い方があるの。この前みつけたものには、「クレヨン筆」って書いてあった。いまでも新商品が出て、シェアが広がって、はじめて「名前」として定着するじゃない?文房具ってそういうものを真剣に考えられてきてないから、わからなくなってるものもあって。そういう世に出てきた流れなんかを調べてみると面白かったりする。オートペンシルって、どう見てもボールペンじゃない?

鉛筆みたいに削らないから「オート」なのかなあ。

こっちのほうは「ボールポイント」って名前になってる。アメリカは「ボールポイントペン」だもんね。そのままつけたりもしてるんだけど、オリジナルで名前をつけたときに別の書き方をしてたりしてる。この形が面白いよね。

ボールペンも、弱いんだよね〜。芯の感じとか…「BIC」好きなんだよ。

あたしも。

ヌッハッハ!

今まであまり見てなかったんだけど、古いボールペンの軸のデザインとか、面白かったりして。

消しゴムヤバイ…。

革のケース入りの消しゴム

のむみちさんとわたしは「ゴム友」だもんね。集めはじめた頃に知り合って。事務用消しゴムが好きって言ってて。なかなかそういう人はいないんだよ。

たいみちさんも最初は消しゴムだったよね?

そう。だんだん広がってっちゃった。

きっかけはなんだったの?

もともとわたしは輸入の文房具が好きだったの。

へ〜!

製図用の地味な文房具とか、ドイツの機能的なモノとか。だんだん輸入ものも派手になってきて、面白くなくなってきたな〜と思っていたところに、たまたま日本の古い消しゴムを見つけて。いまでもドイツの文房具は好きなんだけど、いつの間にか日本の大正・昭和初期くらいの文房具とか事務用品にシフトしてしまった。そして、現在に至る(笑)。

そうだったんだ~。消しゴムって安いじゃん。そこがいいんだよね。

わたしは、天然ゴムの、ガサガサしていて、ピンクなんだけどピンクじゃない、青なんだけど青じゃない。ちょっとくすんだ色合いなところが好きで。今のプラスチック消しゴムは紙のカバーがかかってるけど、昔の天然ゴムは直接印字されている文字やマークがすごく頑張ってたりするところもいいんですよ。
この間書いた本でも、「消しゴム」の他に、「消しゴムのケース」についてのページもつくって消しゴムのページ数を増やしたの(笑)

古き良きアンティーク文房具の世界: 明治・大正・昭和の文具デザインとその魅力の書影

古き良きアンティーク文房具の世界: 明治・大正・昭和の文具デザインとその魅力

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素晴らしい!

これすごくないですか?金属ですよこのへん。ベークライトをつかってたり……。

ベークライトって何?

プラスチックみたいなやつなんだけどすごくしっかりしていて、重みがある。

へぇ〜。

消しゴムは大好きなんですよ。

あの頃楽しかったなわたしも(遠い目)。

映画のほうにいっちゃってね、それも楽しいでしょ?

まあね〜。

わたしは文房具のほうが大変になってきちゃって。

でしょ〜?ハマって何かをやっちゃうと大変だね。

文房具に出てくる映画

あと今日は、「文房具に出てくる映画」の「文房具」もいろいろと持ってきたんだけど。

「文房具に出てくる映画」……?どゆこと?

これは、美空ひばりさんのブロマイドつき消しゴム。マドロスさんのもあるの。こっちの便箋はコクヨの、当時のものじゃなくて復刻だと思うんだけど……。

これちょっとヤバいね……。

キャラクターが出る前は、映画の俳優さんがキャラクターだったの。そのあとに、西城秀樹とか山本リンダとか、アイドル歌手が入るのかな?みんながテレビを見るようになるまでは映画に出てる方が「キャラクター」だったのね。

いつ頃のものなの?
これは浅丘ルリ子だから……昭和30年代かな?

そうだと思う。あと、これは「スター」って書いてあるけど、誰ってわけじゃないよね。

久我美子だよ。

わかるんだ!それがすごい(笑)。こういう写真が入ってるモノもいろんな会社が出してたの。「映画のなかの文房具」もあるけど、「文房具のなかの映画」となると、アイドルとして扱われたものなのかなと。モノとしてはそんなに好きじゃないんだけど、女優さんの出て来るものは時代の雰囲気があって面白いなと。

なるほど〜。これは感動ですわ。

大正から昭和にかけて抒情便箋って言って、挿絵画家が描いた少女の便箋がすごい流行って。使うんじゃなくて集める。抒情便箋の流れは戦後もあって、中原淳一とか、松本かつぢとか、素敵な挿絵を描く人のものが売れて、ずっと作られていたんです。

なるほどね〜。

それが写真になって、そのあとにキティちゃんみたいなキャラクターが出てきたり。あそこからガラッと変わったと思う。キティちゃんはいまも現役だしね。

カタログ、伝票、名刺

これは1959年の文房具のカタログ。

コレ見たかったんだ〜。印刷が素敵……。

カタログも集めてるんだけど、なかなか手に入らなくて。

昭和40年代のモノになると、ヨーロッパの影響がなくなってくるんですよ。そして、いまの大人たちが懐かしいっていうようなものが増えていって。事務用品は、40年代に入るとデザイン的に地味になっちゃう。

そうなんだ。

それまでの時代のものはモノじたいが華やかであるように頑張ってたような気がするけど、それくらいから日本らしい事務用品になって華がなくなったと思ってる。

これは40年代くらいまで使われてた伝票。

うわ、デカッ!すっげー!

このあたりはだいたい昭和30年代くらいのものだと思う。表紙が可愛いんだよね。

こりゃ立派だね〜。

花名刺も出しましょうか?これが見本帖。

うはーーーーーー!すーーーごーーーい。きれいだあぁぁ。あと、ちっちゃ!

これは婦人用で、見本帖には大きいサイズのものもある。すごくおしゃれ。

これが書いてあるやつで、舞妓さんが使うものって言われてるんだけど、普通の人も使ってたんじゃないかなと。名前は手書きで書かれてて。

ねね、ヤバイヤバイ。「田中絹恵」だって。

田中絹代と一文字違い〜。
こんなのつかってたんだね〜。

この紙を買って、裏に手で書いてたんでしょうね。普通の名刺の半分くらいのちいさい紙もあって。そういうのは印刷してたけど、花名刺とかは買って名前を書いて…ハイカラよね。

手帳のいろいろ

あとね、いろんな手帳も持ってきてて。

何コレ〜うわーうわー。

例えばこれは戦前のノベルティで、企業が出していたもの。

クーッ!……アッ!方眼だ!この方眼何ミリだろ……?

これは手帳なんだよね。1923年?これキレイでしょ?

ウハッ!か〜わ〜い〜☆見てこの小口!ヤバイ。

そういうとこ見るんだ(笑)。色使いも紙使いも可愛らしいよね。

こういうものは骨董市に出るものなの?

そう。私は手帳が欲しくて買うんだけど、中身に特徴があるものだったりすると、そういうものを集めている人もいるから高くつくことがある。たとえば軍人さん関係とか。

これは神戸銀行の手帳だけど、デザインが豪華でしょう?

この黒いのもちっちゃいけどすっごくよく出来てるの。

ヤッベ!また方眼(真顔)!みてこのカスレ。ねえちょっと『名画座手帳』でもこれやりたいんですけど!
見てコレ!鉛筆!

nomu have a pen

これは輸入品じゃないかと思うんだけど、カバー式になってる。ここも引っ掛けられるようになっていて。

これもおしゃれな感じで。これは鉛筆が欲しくて買った気がする。

あ〜。

舞踏会の手帳

わたしは「舞踏会の手帳」にすごく興味を持っていて。

なぁに、それ?

ダンスの相手を書くもので、有名な映画もあるの。
舞踏会の手帖

その映画は、昔舞踏会で踊った人を訪ね歩くっていう内容なんだけど、それにも出ていて。鉛筆で書いて消せるのよ。ダンスの順番を書いて、3番目はどうとか(笑)。

素敵だね〜。

これなんかは書いてあるでしょ?扇形のものもあってすごくお洒落なの。

アッ!「1913」って書いてある!!

103年前にそれを書いて……。そのあとは、舞踏会に出なかったんだろうか?

ドラマやねえ〜。

ダンスをするのにじゃまにならないように、かつ、おしゃれなように。すごく小さいシャープペンシルとか、芯にホルダーが付いたようなものがついていて。

もともとは「書いて消えるもの」に興味を持ってて、それで舞踏会の手帳に行き着いて。あまりこういう装飾品系の文房具には手を出さないんだけど、これは欲しくて。

超かわいい〜

文房具としての"名画座手帳"

最後に、のむみちさんの手帳でいいなって思ってるのは、「手帳」が前に出すぎてないこと。私は手帳はシャーロック・ホームズにおけるワトソンみたいなもので、下支えするものだと思ってて。

……嬉しい〜。見た目とかは、『歴史手帳』くらい地味にいきたくて。コアなファンの人が、開いてウッとなるものを作りたかったの。

映画が好きな人に寄り添うというか……。目立ちすぎないように、だけど書くことは書いてある。それが「手帳」なんだなって。「名画座」だからってレトロな表紙を入れたりだとか、無駄に写真とかそういうところをアピールしようとしてないところがいいかなと。……おしゃれじゃないんだよ!

(笑)断言!!

主張しない所がいいよね。こそっと書いて、じぶんでニヤッとする。出した手帳が時流に乗ってない所が、のむみちさんらしい。

すごくよくわかってくれてる!あたしゃ間違ってなかったね!

のむみちさんの言っていた「おっさんのカバンから出てきそうな合皮の手帳」っていうのがこの手帳を表している気がする。想いとか、どういう手帳にしたかったとか。

嬉しい〜。

名画座手帳

収録:神田伯剌西爾 構成:トマソン社

登場人物

のむみちのプロフィール画像

のむみち

1976年宮崎県生まれ。池袋古書往来座店員。
2009年に旧作邦画に目覚め、名画座と出会う。
2012年にひと月の都内名画座スケジュールを一覧表にしたフリーペーパー「名画座かんぺ」を創刊。
2016年に5年目を迎えた。

たいみちのプロフィール画像

たいみち

古文房具コレクター。明治〜昭和の廃番・輸入製品を中心に、鉛筆・消しゴム・ホッチキス・画鋲・クレヨンなど、あらゆる種類の文房具を蒐集。展示、イベントでコレクションを公開するほか、テレビ・ラジオ・各種メディア出演を通して古文房具の魅力を伝えている。